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ラルフ・ローレンツ博士講演会
「タイタン(土星の衛星)探査の現場から」開催

1/8(日)、土星の衛星・タイタンの表層科学の第一人者でありトムソン・ロイター社が選ぶ「世界に最も大きなインパクトを与えた惑星科学者」の一人にも選出されたラルフ・ローレンツ博士にTeNQにお越しいただき、サイエンスエリアにて講演会とお客様とのトークセッションを実施しました。
お子様から大人まで多くの方にご参加いただき、ありがとうございました。

<講演会概要>

タイトル
「タイタン(土星の衛星)探査の現場から」

日時
2017年1月8日(日)14:00~15:30頃

登壇者
ラルフ・ローレンツ博士
宮本英昭氏(東京大学大学院 教授/東京大学総合研究博物館兼任)

講演内容

まず、宮本先生からローレンツ博士の紹介とタイタンについて説明がありました。

「地球に衛星は1つ、月しかありませんが、土星には衛星が60個ほどあり、一番大きい衛星がタイタンです。タイタンは地球と大体同じ位の圧力の大気を持っています。更に表面に液体の炭化水素があるのではと言われており、昔から注目されています。そして有名なカッシーニ計画の着陸機であるホイヘンスの中心人物がまさにラルフ・ローレンツ博士です。彼は世界的にとても有名ですが、科学者としてだけでなく、人間としてもとても魅力的な研究者です。」
宮本先生の紹介で更に少しずつ着席する方が増え、皆さまの拍手に迎えられながら博士が登場しました。

ビジョンにはカッシーニ探査機が撮影した画像が映し出され、博士はこのプロジェクトに27年間関わっているとのお話が。「これはタイタンと土星の写真です。これは皆さんが持っているような小さな望遠鏡を使っても地球から見ることができ、点よりも大きく見えます。タイタンの周りには少しぼやけた影のようなものが見えるため、19世紀からタイタンには大気があるのではと言われていました。」
タイタンは太陽系の中で唯一大気がある衛星であり、19世紀から大気の存在について語られていたとは、驚きですよね。「水星や月より大きく、表面の重力は大体月と同じくらい。タイタンの大気はむしろ地球よりも濃く、同じくほとんど窒素でできています。太陽からの距離は地球より10倍遠いため、表面の温度は大変低くマイナス100度以下。自転軸が傾いており、地球や火星と同じく季節がありますが、1つ1つがとても長いです。」
というのも、タイタンの1年は地球でいうとなんと30年位に相当するのだそうです!

「私は1990年にカッシーニ探査機に関する研究を始め、7年位探査機を作ることに費やしました。そしてカッシーニを打ち上げてからタイタンへ届くまで更に7年かかりました。」
カッシーニ計画は1990年に始まったものの、その10年前に探査機・ボイジャーがタイタンを訪れているため、探査によるタイタンの理解は1980年代から始まっています。そしてボイジャーから撮影した写真がビジョンに映され、実際にこの写真から多くの有機物が存在することがわかったという話も。とてもリアリティを感じます。
「こうした理由から、タイタンにはメタンがあるのではと言われるようになりました。メタンは地球でいうと気体ですが、タイタンは気温が低いため液体として存在しているのではと考えられていました。そしてNASAやヨーロッパの宇宙機関と協同し、カッシーニという探査機を作り上げたのです。カッシーニに搭載された探査機・ホイヘンスは、多くの国の人と共に作り上げました。」

色々な部品の説明もなされ、それぞれ作っている国も異なるという話はとても興味深いです。まさに世界的なプロジェクトの1つだと実感できます。
2004年に土星周辺に到着したというカッシーニ。タイタンの近くに映る白い靄は雲で、タイタンの気候変動を見ることができるというのも驚きです。
「タイタンを調査していくと、メタンと窒素が多くあり、有機物があることもわかりました。表面は食べ物でいうとクレームブリュレのような感じです。この調査をしていた当時はとても忙しく、20人位の研究者に対し100人位の報道陣がかけつけていました。報道陣にはクレームブリュレ説が好まれましたね。」とのこと。例えがクレームブリュレというのもなんともユニークです!

「ホイヘンスが着陸の衝撃を受けても機能し続けられるか心配もありましたが、無事タイタンの表面の写真を撮ることができました。岩石の形がとげとげしくなく丸っぽいことから、川などの影響があったのではとも考えられますし、色々な発見がありました。メタンが多く存在することもわかりました。表面は液体が流れていたり、雲がある点では地球とよく似たプロセスがあるにも関わらず、表面を構成している物質は地球とは全く異なるという点がタイタンの面白さの1つです。」
そしてこのとき撮影された写真は、TeNQのサイエンスエリア「探査機View」に使われています!実際にタイタンに降り立った気分にもなれますので、気になる方は是非チェックしてみてください。

また、タイタンにあるだろうと予想すらされていなかったものが砂丘だそうです。
「大気は地球より濃く、表面を構成している物質は地球とは全く異なり、重力も地球よりかなり低いですが、地球にある砂丘とほとんど同じように見えます。」パネルにはスペースシャトルから撮影されたナミビアにある砂丘の写真が映されたのですが、確かにタイタンの砂丘と同じように見えるのがとても不思議です。また、砂丘の形状は風の向きによって変化するため、多方向から風が吹いていたり、タイタンの気候変動も考えられるということは、思いがけない砂丘の存在は大きな発見であったことがわかります。
地球でも砂丘の形状変化で気候変動がわかるという例がアラビア砂漠にもあるとのこと。そしてあの有名な映画「スターウォーズ」のエピソード7で使われた風景であるというお話にはお客様もびっくりされていました!

BBCの取材の際に撮影したというオマーンの上空からの写真等もビジョンに映し出されます。カッシーニ探査機が実際に撮影したタイタンの写真を見比べてみると、あるときはほんの小さな場所だけれど明るく見えるところがあります。それは表面の”波“が大きくなったからだと説明できるかもしれないとのこと。写真1枚からでも多方面から分析が可能であり、重要なデータであることも実感できます。
「実際にカッシーニ探査機は今も土星の周りを回っており、貴重なデータをとり続けています。エンセラダスという衛星に近づいたり、そのほかの衛星にも近づいて計測もしています。タイタンの近くでの計測は今までで計125回ですが、もう一度計測の計画があります。その計測がおわったあと、土星と土星の輪の間を通るような軌道にカッシーニを投入する予定です。これは土星に大変近いところを通るので、今までにはないデータを得られるのではと期待しています。そして今年の9月15日に最後の土星周回を行い、ついには土星に突入する予定です。私は今まで27年程この探査に時間を使ってきましたが、これが最後になりますね。しかし土星、タイタンの探査自体はこれからも続きますし、終わるということはないでしょう。」
タイタンは地球とは全く異なるものの、地球とよく似たプロセスを持っているという点で、探査や研究を通して改めて地球の面白さや多様性を再認識することができたと仰っていました。地球以外の天体を研究するということは、地球そのものについて考えるきっかけにもなり得るということです。
この講演によって、博士が感じた研究の、そしてタイタンの”面白さ”の一部をお客様も共有できたのではと思います!

講演終了後、握手を交わすローレンツ博士と宮本先生

次に来館者との質問タイムへ。寄せられた質問の中から一部をご紹介します。

Q&A

Q)私は映画「インターステラー」が好きですが、博士の好きなSF映画はなんですか?

A)映画「エイリアン」や「ローグワン」が好きです。

Q)1日何時間位寝ていますか?

A)昨日は夜10時位に寝て朝7時に起きましたよ。国際的に色々な仕事をしていると、だんだんと時差ぼけにも慣れてくるものです。

Q)先ほどタイタンの話で、土星の引力によって内部の熱量が非常に高いということを仰っていましたが、もう少し詳しく教えてください。

A)まず地球と月の間で生まれる潮汐力に比べると、土星とタイタンの間で生まれる潮汐力は比べ物にならないくらい大きいのです。地面が潮汐力によってどれくらい変動するかというのを見ていると、地球と月の場合は大体10~20センチの単位ですが、タイタンの場合は15メートル位動きます。ただ、地面が盛り上がったりへこんだりする移動量は大きいですが、タイタンの1日は地球より長いため、1時間あたりの力の差としてみると見かけほど大きくないとも言えます。ただ潮汐によるエネルギーはとても強いので、数十メートル或いは数百メートル地下を考えると、氷が溶けて液体の状態の水になっていると考えられます。また、いくつか大きな山がありますが、山の一部に巨大な穴があいているものもあります。地下の熱がたまらず地表に出てくる、いわゆる氷の火山のようなものがあるのではとも考えられています。

Q)映画「スターウォーズ」で好きなキャラクターは何ですか?

A)C-3POが好きです。(宮本先生曰く)彼は日本も中国も好きで、世界中いろいろなところを飛び回っています。C-3POは多くの言語を話せるのでそういう理由もあるかもしれません。

Q)博士はなぜタイタンを研究しているのですか?

A)私は15歳のときから、宇宙探査をしたいと思っていました。元々は航空宇宙工学の専門家として勉強を始め、大学でその分野の勉強をした後、ヨーロッパの宇宙機関へ進みました。とても幸運なことに、ホイヘンスの機械開発に携わるチャンスを得ました。そしてホイヘンスの機械自体を作る仕事をしていたのですが、そのうちにそこから得られる科学的な成果に興味を持つようになり段々と自分の研究の方向が変わりました。他にも火星にも興味があり研究をしていますし、今回日本に来ているのも実は明日からJAXAへ行く予定で、探査機「あかつき」に関わっています。タイタンは自分が最初に興味を持ち好きになった天体ですが、タイタンのみの研究をしているわけでもないですよ。

Q)ヨーロッパで一番好きな都市はどこですか?

A)パリは好きです。来週はスペイン南部のグラナダに行く予定ですし、ミュンヘンも好きです。今回パネルに映した写真の一部もミュンヘンで撮影したものです。

Q)どんなな乗り物が好きですか?

A)ヘリコプターですね。空から広く見渡せますし、すぐに降りて調査もできますからね。

Q)タイタンに生命体はいると思いますか?

A)我々が知っている生命体が存在するための絶対条件は、水の存在です。タイタンの表面はとても温度が低く、実際火山はあるにはありますが凍ってしまうため、タイタンの表面で地球のような生命体が見られるかと考えるとなかなか難しいでしょう。しかしタイタンの地下に目を向けると、温度はもっとあたたかく液体の水も存在するでしょうから、生命体の存在について簡単に否定することはできません。他には土星の衛星・エンセラダスも面白いですよ。エンセラダスは地下に間違いなく液体の水が存在しており、それが地表面を通じて宇宙へ水が放出されていることが知られているからです。タイタンとエンセラダスと比べてどちらの方がより生命体が存在する可能性が高いかと考えると、難しいですがエンセラダスかもしれません。

Q)新しい星を見つけたら、何という名前をつけますか?

A)ちょっと興味深い話があります。まず、誰でも自由に名前をつけられるわけではなく、名前をつけるための組織があります。名前を決めるにもルールがあり、例えば彗星に名前をつけるときは見つけた人の名前をつけるという国際的な取り決めがあります。小惑星に関しては比較的ルールが楽です。タイタンの海に関しては、お話にでてくるお化けのようなそんな名前をつけるというルールもあります。私は今、タイタンの海の中に潜水艦を送りこむという探査計画を検討しているのですが、議論をするときに場所の表現をわかりやすくするために“~湾”といった名前をつけたりもします。星だけではなく地形にも名前をつけるということです。

Q)タイタンの海の水は地球と同じ成分ですか?

A)液体メタンがタイタンの海です。大体、水と比べると密度が半分くらいですね。


トークセッションの後、来館者の皆さまの大きな拍手で講演会は閉幕しました。

土星の衛星・タイタン。そして探査機・ホイヘンス。詳しい学生の方も、たまたまいらっしゃった方も、足を止めて真剣に話を聞くお子様も。直接博士の講演を聞けるだけではなく、疑問や質問をぶつけられるというのはとても貴重な経験になったかと思います。
「15歳から宇宙研究をしたいと思っていた」という博士の夢にワクワクしますし、実際にその夢を叶え今も第一線で活躍をされています。勇気をもらえるだけでなく、今後の宇宙研究にもより興味が沸いてきます。今回このレポートを読み、より詳しく知りたい!学んでみたい!研究者になりたい!と興味を持っていただける方がいたら、とても嬉しいです。

今後もTeNQでは、皆さまに宇宙をより身近に感じていただけるようなイベントを開催していきたいと思います。今回参加してくださった方々、質問してくださった方、そしてラルフ・ローレンツ博士、宮本英昭教授、本当にありがとうございました!